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東京地方裁判所 昭和50年(ワ)3857号 判決

原告 城南信用金庫

右訴訟代理人弁護士 橋本一正

被告 破産者株式会社エニー破産管財人 佐藤淳

右訴訟代理人弁護士 森高計重

主文

一、原告が、破産者株式会社エニーに対し、金三二六万七五一七円の破産債権を有することを確定する。

二、原告のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用はこれを四分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1.原告が、破産者株式会社エニー(以下破産会社という)に対し、金四五四万九三五二円の破産債権を有することを確定する。

2.訴訟費用は被告の負担とする。

二、請求の趣旨に対する答弁

1.原告の請求を棄却する。

2.訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1.破産会社は、昭和四九年一一月六日、東京地方裁判所において破産宣告を受け、被告はその破産管財人に選任されたものである。

2.破産会社は、これより先き同四八年八月二一日、原告との間で原告が第三者との取引で破産会社の振り出しにかかる手形を取得した場合に、破産会社がその債務を履行しないときは、原告に対し支払うべき金額について年一四パーセントの割合の損害金を支払う旨の条項を含む信用金庫取引契約(以下本件契約という)を締結した。

3.破産会社は、同四八年一一月二〇日から同四九年二月二〇日までに、別紙手形目録(一)ないし(三)記載の約束手形(以下本件(一)の手形などという。)各一通を受取人訴外株式会社エレツクス(以下訴外会社という)あてに振り出した。

4.本件各手形の裏面には、裏書人訴外会社、被裏書人原告なる記載がある。

5.原告は、本件各手形を、いずれも前記破産宣告に先立つそれぞれの満期に支払場所に呈示したが、いずれも支払を拒絶されたので、これらを所持している。

6.よって、原告は、前記破産宣告時において、破産会社に対し、本件の各手形金及びこれに対する各満期の翌日から破産宣告の前日まで本件契約所定の年一四パーセントの割合による遅延損害金、即ち、本件(一)の手形金については、元金三〇〇万円及びこれに対する同四九年三月一日から同年一一月五日までの遅延損害金二八万七六七一円、本件(二)の手形金については、元金二〇〇万円及びこれに対する同年四月一日から同年一一月五日までの遅延損害金一六万八〇〇〇円、本件(三)の手形金については、元金二〇〇万円及びこれに対する同年五月二六日から同年一一月五日までの遅延損害金一二万五八〇八円の各債権を有している。

7.原告は、破産債権として右各債権を届け出たが、被告は同五〇年三月七日の債権調査期日において、右各債権のうち、本件(一)の手形金については元金のうち金二〇六万〇八七七円、損害金のうち金二四万八九一九円、本件(二)の手形金については元金及び損害金全額、本件(三)の手形金については損害金のうち金七万一五五六円について、それぞれ異議を述べた。

8.よって、右異議ある破産債権合計金四五四万九三五二円の確定を求める。

二、請求原因に対する認否

1.請求原因1の事実は認める。

2.請求原因2の事実のうち、破産会社が、原告主張の日に原告と信用取引契約を締結したことは認めるが、その内容は否認する。

3.請求原因3ないし5の事実はいずれも認める。

4.請求原因6の事実のうち、原告が前記破産宣告時において、破産会社に対し、本件の各手形金につき、以下の金額及びこれに対する各満期から破産宣告の前日まで手形法所定の年六分の割合による法定利息、即ち、本件(一)の手形金については、元金九三万九一二三円及びこれに対する昭和四九年二月二八日から同年一一月五日までの法定利息金三万八七五二円、本件(二)の手形金については、元金二〇〇万円及びこれに対する同年三月三一日から一一月五日までの法定利息金七万二三三六円、本件(三)の手形金については、元金二〇〇万円及びこれに対する同年五月二五日から同年一一月五日までの法定利息金五万四二五二円の各債権を有していたことは認め、その余は否認する。

原告の本件破産債権の届出は、約束手形金債権としてなされているので、原告は右元金債権以外には、手形法所定の満期以後の法定利率年六分の割合による法定利息債権を有するのみである。

5.請求原因7の事実は認める。

三、抗弁

1.本件手形の振出人である破産会社と裏書人である訴外会社は、手形所持人である原告に対し合同責任を負担するとともに、そのうちの一人による弁済や相殺の効果は絶対的効力を生ずるものであって、原告は弁済を受けた部分につき破産債権として二重の請求をすることは許されないというべきである。しかして、本件(一)の手形元金三〇〇万円については、裏書人である訴外会社が、昭和四九年四月三〇日、原告に対し、金一一九万五一九一円を支払い、かつ原告が、同年一一月一五日、訴外会社に対し、右手形金債権と訴外会社の原告に対する預金債権とを対当額である金八六万五六八六円において相殺したので、右合計金二〇六万〇八七七円について債権は消滅した。

2.仮に請求原因2記載の損害金についての特約があったとしても、これは手形金債権と併存する貸金債権についての約定で、原告が本件破産債権として届け出た手形金債権についてはその効力が及ばない。

3.仮に、右特約の効力が手形金債権にも及ぶとしても、それは強行規定である手形法第四八条、七七条に反し無効である。

四、抗弁に対する認否

1.抗弁1記載の支払い及び相殺のあった事実は認め、その余は否認する。原告は訴外会社との取引契約により、訴外会社が清算等にはいった場合、訴外会社において手形の買戻し債務を履行するまで、原告は手形所持人として一切の権利を行使することができると特約しており、原告は右特約により破産債権を行使するものである。

2.抗弁2、3はいずれも争う。

第三証拠〈省略〉。

理由

一、請求原因1、3、4、5の事実は当事者間に争いがない。

従って、以下被告の抗弁について判断する。

二、まず抗弁1についてみるに、同抗弁事実のうち原告と訴外会社との間に右記載の弁済及び相殺のあった事実は当事者間に争いがない。

右事実及び前記請求原因第1項の事実によれば、原告は破産会社に対し、本件(一)の手形元金として金三〇〇万円の債権を有していたこと、これについて裏書人訴外会社が昭和四九年四月三〇日、原告に対し金一一九万五一九一円を支払ったこと、その後破産会社が、同年一一月六日、破産宣告を受けたこと、更にその後原告が、同月一五日、訴外会社に対し、右手形金債権と訴外会社の原告に対する預金債権とを対当額である金八六万五六八六円において相殺したことが認められる。

ところで、破産法二四条は、全部義務を負う者の全員又は数人が破産宣告を受けたときは、債権者は破産宣告時の債権の全額について破産債権者としてその権利を行使できる旨を規定している。右の趣旨を本件に即していえば、破産者が約束手形の振出人として裏書人である第三者と手形上のいわゆる合同債務を負担している場合、債権者は破産宣告時における手形債権の全額をもって破産者の破産手続に加わることができ、また、破産宣告後に右第三者から破産手続外で弁済等を受けても、破産債権を減額する必要はなく、債権の全額の弁済を受けるまで終始継続して同一の配当に加わることができるものと解すべきである。してみると、本件において、原告が破産会社の破産宣告時に有していた本件(一)の手形元金債権は、右金三〇〇万円から破産宣告前の訴外会社の支払分金一一九万五一九一円を控除した金一八〇万四八〇九円であり、一方、原告の訴外会社との相殺分金八六万五六八六円については右相殺は右破産宣告後のものであるからこれを原告の破産債権から控除すべきでなく、結局、原告は破産会社に対し、本件(一)の手形元金については金一八〇万四八〇九円の破産債権を有するものというべきである。

(原告は、訴外会社との特約「抗弁に対する認否1記載」に基づき手形所持人として破産債権を行使すると主張する。右の特約が、破産会社の破産の場合と如何なる関係にあるか明らかでないが、甲第一号証によれば原告は破産会社との間においても原告主張と同じ特約をしていることが認められるものの、右のような特約があっても、破産債権は破産宣告時を基準として定める旨の前記破産法の規定によるべきであるから、原告の右主張は採用できない。

又被告は、債権の二重行使は許されないと主張する。しかしながら、前記破産法の規定の趣旨に照らし、破産宣告後の弁済は破産債権の行使に影響を与えないものと解されるので、右主張は採用できない。けだし、破産配当の結果、破産債権者が他の義務者からも弁済を受けたことにより、債権額を超える弁済を受ける結果になれば、それは配当異議、或は不当利得返還を求めることによって争えば足りることだからである。)

三、次に、本件契約に基づく損害金の特約の効力を判断すると、成立に争いのない甲第一号証によれば、原告は昭和四八年八月二一日、破産会社との間で、本件契約を締結し、右契約において、破産会社が振り出した手形を原告が第三者との取引によって取得したときは、その債務の履行について本件契約条項に従う旨、及び、破産会社が原告に対する債務を履行しなかったときは、支払うべき金額に対し年一四パーセントの損害金を支払う旨合意したことが認められる。そうすると、右損害金の合意は、貸金債権のみならず手形債権にもその効力が及ぶと解すべきであり、かつ、手形金債権について、手形法所定の法定利息の利率を超える遅延損害金の特約をすることは、当事者間では民法上の契約として有効と解すべきであるから、被告の抗弁はいずれも採用できない。(なお、破産債権の届出は、その原因として債権の同一性を認識するに足りる範囲でその発生事実を表示すれば足りるものと解すべきであるから、仮に原告が本件破産債権届出において、単に約束手形金債権として届け出ていたとしても、これにより右遅延損害金を破産債権として確定することが妨げられるものではない。)

四、以上の次第であるから、原告は、破産宣告を受けた時点において、破産会社に対し次の破産債権、即ち、本件(一)の手形金について、手形金残元金一八〇万四八〇九円並びに手形金三〇〇万円に対する満期の翌月である昭和四九年三月一日から訴外会社の金一一九万五一九一円の弁済のあった同年四月三〇日まで、及び右の残金一八〇万四八〇九円に対する同年五月一日から破産宣告の前日である同年一一月五日まで、本件契約所定年一四パーセントの割合による各遅延損害金合計金二〇万一〇二七円、本件(二)、(三)の手形金については、いずれも請求原因6記載のとおりの各元金及び遅延損害金の各債権を有することになる。

そうすると、結局原告の本訴請求は、本件破産債権として被告により異議を述べられた本件各手形債権(請求原因7の事実、右異議の事実は当事者間に争いがない。)のうち、本件(一)の手形残元金八六万五六八六円及び遅延損害金一六万二二七五円、本件(二)の手形元金二〇〇万円及び遅延損害金一六万八〇〇〇円、本件(三)の手形の遅延損害金七万一五五六円の合計金三二六万七五一七円の債権(右の計算関係は別表のとおりである。)の確定を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 上村多平)

〈以下省略〉

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